子供の頃のヒロ
ヒロには子供の頃の記憶がほとんどありません。
しかし、最近色々な事があり、過去の記憶が断片的にではありますが、よみがえってくる事があります。
それは辛すぎて抱えきれなかった記憶を丸ごと封印していたのに、解き放ってしまったような感じです。
そして、解き放たれた記憶は現在の自分に有益な情報を与えてくれました。
子供の頃のトラウマから自分を守る為、様々な工夫をして生きてきたのだと痛感させられました。
それを自分なりに考えて今後の改善に活かす為に、前向きな回想をしてみたいと思います。
ヒロはとにかく多くの性格を持っていました。
元々は物静かな大人しい子供だったと思います。
しかし、突然怒り出す怖い子と言われたり、理屈っぽく先生でも見境なく口答えする子だと言われたり、ひょうきん者だと言われたり、その評価はその時々で違っていたと思います。
今思い出した事は上記の3つなので、それぞれ理由を考えて対処方法を考えていけたら、ヒロは生きやすくなるのかもしれません。
ヒロの本質は自由に静かに過ごしたいのだと思います。
周りには出来るだけ人はいない方が良いのでしょう。
突然怒り出す一面がまさにそれを物語っています。
ヒロは自分のパーソナルスペースに他人が入ってくるのを嫌います。
ただ入っているだけなら問題ありませんが、子どもは得てしてちょっかいを出すのが好きです。
それがヒロには耐えられませんでした。
我慢しきれずにブチ切れた時、周りは驚くほど簡単にヒロの思い通りに去っていってくれたのです。
これほどの成功体験をしてしまったヒロは、近づいて欲しくない敵と判断した相手に怒るという手段をずっと引きずって生きてきたのだと思います。
それがザッチを悩ませている一因で、ザッチはかなり早い段階でそこにたどり着いていたように思います。
これについては『感情のコントロール』編で何度か書いていて、これからも続けるつもりなのでここではあえて省略させてもらいます。
次に理屈っぽいと言われた事について考えてみたいと思います。
これは、察する能力が乏しかったが為に出来上がった性格だと思います。
とにかく相手の言うことが分からず、『なんで?』と言うことが多かったと思います。
そして理由を答えてくれなかったり、答えたとしても納得できる答えではなかったりした場合、自分で考えて答えを導き出していたのだと思います。
一番良い例が、勉強をする意味です。
↓ 昨日の記事です ↓
このように常に理由を自分なりに出して、相手を論破しなければ自分を保てなかったのだと思います。
これも突然怒るのと同じで、かなり効果がありました。
人がヒロに話しかける事が少なくなったのです。
今思うと、面倒くさい奴と思われたのでしょう。
触れると怒るか理屈をこねくり回して訳の分からない事を言うけれど、触れさえしなければ大人しくてニコニコした人畜無害な人間なのです。誰も近寄りません。
それをヒロが望んでいたので、周囲がヒロを除外する事が素晴らしく良いバランスを保っているように思いました。
しかしコミュニケーションを学ぶ機会を失ったヒロは、大人になってヒロ自身とザッチを苦しめる事になるのです。
相手の言う事の真の意味を察する事ができないのは仕方ないと思います。
この能力を身につける事はアスペルガーにとっては不可能に近いと思います。
しかし、しっかり聞き出せば理解できないと言う事はないのだと思います。
できないのではなく時間がかかるだけと思えば、少しは気が楽です。
さて、自分でも驚いたのがひょうきん者と言われた一面です。
これもヒロの特徴が関係していると思います。
ヒロは人の顔を覚えるのが苦手です。他にも色々な事を覚えられないことがあります。
周囲の人が普通に覚えられる事を覚えられず質問をした時、みんなが『笑わそうとしてわざと忘れたふりをした』と思ってくれた事がありました。
これはヒロにとっては思いがけない成功体験として残ったのでしょう。
ヒロは自分の記憶の不備を隠すため、普段から覚えていても覚えていなくても同じテンションで分からないふりをする能力を身につけていきました。
これは回数を重ねるとバレますが、幸いヒロは孤立していたため人と話す事が少なく、少ない中の数回でそれをやっていたので、本当はどっちなのか分からないという状況を作り出せたのです。
今思うと、本当にうまく学生時代を逃げきれたものだと思います。
記憶に関しては、解決法を考えるにはまだ時間が必要だと思うので、また別記事にできたらと思います。
私はヒロさんに出会ってすぐの頃、ヒロさんにあるお願いをしました。
「ヒロさんは昔、どんな子やったん?今まで生きてきた中で楽しいこととか辛いこととか色々あったと思うけど、差し支えない範囲で良いから、年表みたいなん書いて教えてくれへん?」
私は例として、縦軸に自分の幸福度、横軸に年齢をとったグラフを書き、自分の中での主要イベントをを書きこんだ物をヒロさんに示しました。
↓こんな感じ(実際の私のものではなく、あくまでイメージです)
すると、ヒロさんは「ほとんど記憶が無いから書けない」と言いました。
私は最初、ヒロさんがまだそこまで仲良くなかった私にプライベートな事を話したくないから、敢えてそう言って避けているのかと思いました。しかし実際はそうではなく、ただスッポリ記憶が抜けている年代が複数あって、本当にグラフに書き込めないから、書けないと言っただけだったのです。
そもそも私が何故そのような物をヒロさんに書いて欲しいと言ったかというと、理由はいくつかあるのですが、ざっくり言うと次の2つです。
- ヒロさんという人が謎すぎて、知りたいと思ったから
- お互いの情報を交換して仲良くなりたかったから
私はヒロさんに出会った頃、OCDが酷くて家から出るのがやっとの状態でした。OCDの症状で制約が多いなか、ヒロさんは私を温かく迎えてくれました。ヒロさん自身、鬱で苦しい時期があった経験を話してくれて、私のOCDに対しても「辛いね、頑張ってるね」と言って理解を示してくれました。私も若い時に鬱だった時期があったので、お互いが打ち解けるのに時間はかかりませんでした。
このように、根本的にはすごく優しいヒロさんでしたが、一緒に居る時間が長くなると、私の予想外のタイミングでヒロさんがネガティブな感情を吐き出すことが分かってきました。私は、ヒロさんは過去のトラウマを拗らせているんだな、と思いました。
ヒロさんの様子を観察してみると、ネガティブな感情にしばしば支配されていることも、それが何によって引き起こされた感情なのかも、本人はあまり意識していないように見えました。私は開けてはいけない箱を見つけた気分でした。きっとヒロさんの自己防衛本能の賜物でそういう行動を取っているのだから、私は安易に触れるべきではないと思いました。
幸か不幸か、私のOCD事情がヒロさんと一緒に居ると快方へ向かったので、ますます一緒に居る時間が長くなりました。私はヒロさんをより深く知りたいと思うようになり、私も自分自身の事をヒロさんに知って欲しいと思うようになりました。私の好奇心はかなり強い欲求なので、この行動がヒロさんを傷つけかねないと頭では分かっていましたが抑えることができませんでした。過去の問題を明らかにしてヒロさんを癒すことができれば、ネガティブな感情に支配されることもなく、お互い幸せに過ごせるのではないかなと、お節介で傲慢な私は押し付けがましく考えていました。
そして、私は「過去の自分」の情報の交換を提案した訳です。
私は昔の自分の出来事をできる限り丁寧に説明しました。
鬱のこと、不登校のこと、親との関係、会社でのトラブルといった辛かった事だけではなく、楽しかったバイトの話や、趣味のこと、生き甲斐を感じた瞬間など、今の自分を構成する要素となる重要イベントを順番に語りました。とても長い話でしたがヒロさんはきちんと聞いてくれました。
そして私が「ヒロさんのも教えてー」と求めた時、ヒロさんは「ほとんど記憶が無いから…」と言ったのです。言いたくないのではなく、本当に覚えていないから書けないのだと…
私はヒロさんは過去に余程辛い事があったのだと思いました。親に虐待を受けていたのかも、とか色々な可能性を考えました。しかし、封印した記憶を無理矢理に呼び起こす事が本人にとってどれだけ辛く危険な行為なのかは、無知な私なりに察したので、それ以上踏み込むことはありませんでした。
それから一年半後、私はヒロさんにアスペルガーかもという事を告げ、ブログを二人で書くことになりました。そしてヒロさん自身、自分の過去について考えるようになった結果、この記事が生まれた訳です。
こういった背景から、ヒロさんの自らの過去についての考察は、私にとって、とてもとても感慨深い内容でした。
頑張ったんだね、ヒロさん。
↓ アスペルガーかもと告げた時の話はこちら ↓